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彼女は今日もフルートを携える。
音楽だけを友とし、音楽だけが彼女を癒した。
彼女にそうさせた理由を知るために、幾許かの時を遡ろう。


今は昔。彼女がまだ故郷に居る事ができた頃。
いつからか、彼女は発せられていない声を聞くことができるようになっていた。
しかし、それは彼女にとって、発せられている声を聞くことと同じこと。
だから彼女は、みんなの望みに応えようとした。

時には両親。
彼女の成績が芳しくないときに憂いた。
彼女は何も言われぬうちに努力をした。
彼女に笑顔でいてほしいと願った。
彼女は辛くても笑顔で過ごした。
彼女が健康で過ごせるようにと祈った。
彼女は決して体調を崩さなかった。
「だって、そういったでしょう? ママ、パパ」

時には友人。
彼等だって人間だ。時に何かを忘れる事だってある。
彼女だって人間だ。できることなら、それを助けてあげたいと思う。
彼等は幼いが故に残酷だ。自分達と違うものをあげつらい、団結する。
彼女は幼いが故に懸命だ。排除された者のつらい音が、痛い程に響いてくる。
排除された者は決して望まない。憐憫は薬に成り得ない。
排除される者は決して望まない。なぜ排除されるかに気付けない。
「ねぇ、一緒に遊ぼう。大丈夫。私はあなたを傷つけないから」
「だって、あなたが傷つくことは、あなたが教えてくれるでしょう?」

聞こえる声も、伝わる声も、同じこと。
彼女の気持ちがわかるだろうか。
決して、自分だけが特別だとは気付けない。
だからこそ不思議に思うのだ。
"どうして、私がこんな目に"

彼等の全てが彼女の異能に気付いたとき、
それでも彼等は意識することをやめられなかった。
"いい子なのだけれど、やっぱり気味が悪い"
時には頬を打たれ、時には足蹴にされた。
"何なんだ、こいつは。気持ちが悪い"
絡みつく鎖で体が守られていても、その心は抉られる。
そして、体が守られているからこそ、暴力の対象は他に向く。
彼女の大切なものが、尽く壊されていった。
両親でさえ、彼女を助けてはくれない。

彼女はやがて、学校へ行くことも、家に帰ることもやめた。
彼女はただ草原に立ち、音を奏でた。
たった一つ、いつも持ち歩いていたフルートだけは、守り通した。
自分の身を守るための努力も惜しまなかった。
とはいえ所詮は子供。手が届くものなど、たかが知れているから。
身の丈ほどもある木の棒を拾い、それを振るうことで身を守った。
幸いにもというべきなのか、不幸にもというべきなのか。
彼女に近付けば、どうあってもその声は聞こえてしまう。
容赦なく吹き付ける悪意の風に身を切られながら、それでも彼女は生きた。

やがて数年の時が過ぎた。
彼女は丘の上の木の下に座り込み、俯いていた。全てを諦めかけていた。
どうやら自分は他の人とは違っていたようだ。
でも、気付くのが遅すぎた。もう、生きていても仕方がないのかもしれない。
「ねぇ、まだここにいるの」
聞き覚えのある声に、彼女は静かに顔を上げた。
「わからない。だが、これは私たちの責任だ」
あの人たちに、武器を向けたくはない。私は幸せだったはずだから。
あの人たちに終わらせてもらえるなら、それもいいだろう……。
彼女は静かに顔を伏せ、目を閉じる。一筋の涙を流しながら。
「あの子、まだ――!」
「静かに……!」
"眠っているのだろうか"
"それとも、死んでしまっているのだろうか"
彼女に触れる、暖かな感触。
「大丈夫、生きている」
心から安心したような声が聞こえてくる。
すまなかった。私達にはもう、こんなことしかできない……。
それははたして実際の言葉だっただろうか。それとも心の声だっただろうか。
草達を崩す軽い音が鳴れば、あとは2人分の遠ざかる足音だけが聞こえた。
やがて彼女が目を開けると、そこには真新しいケースが置かれていた。
中には銀色に輝くフルートと、封筒。

"愛すべき私達の娘へ"

そこには、長年にわたる彼女の行動で、この場所が良く思われていないという事実。
日本には彼女と似た力を持つ者たちが集う場所があるという情報。
そして、日本に渡る術が収められていた。

事実上の故郷の追放。それは、彼女を想うが故の愛情でもあったのかもしれない。
一度悪意を向けてしまった娘に、どんな顔をして会えばいいというのか。
積み上げたものを壊すことは容易だ。
しかし、それを直すことは、一から積み上げるよりも難しい。

この物語が事実かどうかは重要ではないのだ。
信じるかどうかは、あなたの中にしかないのだから。
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